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Recent Topics

超臨界流体を用いた機能性酸化物ナノ結晶の創製
超硬質性14族元素窒化物の合成と結晶化学および体積弾性率
遷移金属多窒化物の超高圧合成と結晶化学および電子構造
アンモニウム塩を用いた遷移金属窒化物の高圧合成と結晶成長
高圧力合成を利用した新規蛍光体の合成と発光特性評価
ナノ多結晶セラミック(ナノセラミック)の合成と機能特性

Topic 1

超臨界流体を用いた機能性酸化物ナノ結晶の創製


 Diamond-Anvil Cellは気密性が高く液体や気体を封入して数十万気圧まで加圧することができ,さらに赤外レーザーを組み合わせることで超高圧超高温場を作り出すことができます.我々は数GPaの圧力下で超臨界酸素を溶媒に用いることで,ルチル型GeO2サブミクロンサイズの中空結晶を得ることに成功しました[1].また,水とチタン(Ti)箔を2~5 GPa,数千℃の状態で瞬間的に反応させ,室温下に急冷することで光触媒として用いられているルチル型TiO2の中空角柱状ナノ結晶の創製にも成功しました[2].
 超高圧力下における超臨界流体の高い溶解度,ごく短時間(<10^-3 s)での結晶成長,そして結晶構造に由来する表面エネルギー差がこうした特異な形態のナノ結晶材料の創製に深く関連していることがわかりました[1-4].さらにCoなど遷移金属元素を微量添加させることで,触媒だけでなく強磁性の発現など新たな物性を付加を期待したナノ結晶材料の創製とその解析にも取り組んでいます[5].超高圧下における物質合成は,既知の機能性材料であっても,全く新しい結晶構造,形態,機能を持つ物質の創製に繋がる非常に魅力的な研究です[6].


[関連論文 *下線は所属学生]
[1] K. Niwa, H. Ikegaya, M. Hasegawa, T. Ohsuna, T. Yagi, Journal of Crystal Growth 312:10 (2010) 1731-1735
[2] 長谷川正,丹羽健,セラミックス 46 (2011) 378-385
[3] 長谷川正,丹羽健,日本結晶成長学会誌 38 (2011) 4-11
[4] K. Niwa, T. Taguchi, T. Tokunaga, M. Hasegawa, Crystal Growth & Design 11:10 (2011) 4427-4432
[5] K. Niwa, H. Ikegaya, T. Taguchi, S. Muto, T. Tokunaga and M. Hasegawa, Journal of Physics: Conference Series (JPCS) 500 (2014) 022007
[6] 丹羽健,長谷川正,高圧力の科学と技術 24 (2014) 178-187

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Topic 2

超硬質性14族元素窒化物の合成と結晶化学および体積弾性率


 典型元素の中でも14族元素の窒化物は,硬質性セラミックスや触媒など機能性材料として広く研究されています.14族元素は4価が安定なため,一般的にはA3N4(A=Si, Ge, Sn)の窒化物を形成します.α型およびβ型は14族元素に対して窒素が4配位した局所構造をとりますが,1999年に10 GPa以上の高圧下において,シリコン(Si)と窒素分子(N2)の直接反応からSiに対してNが6配位した局所構造をもつγ型Si3N4が合成されました.γ型Si3N4はα型およびβ型よりも高密度かつ高体積弾性率であるため,硬質材料としての用途を期待して基礎から応用まで幅広い研究が展開されてきました.

 我々は2017年に,60 GPaにおける14族元素(Si,Ge,Sn)と窒素分子の直接反応から,20年ほど前に理論計算で存在が予言されていたが実際には合成されていなかったパイライト型AN2の合成に成功しました[1].パイライト型AN2は可視光に対して透明で,α型,β型,γ型より高密度です.そして高圧その場X線回折測定の結果,γ型A3N4より高い体積弾性率を示すことがわかりました(右図).硬質性の起源として結晶構造中に存在する単結合窒素や14族元素の結合状態が指摘されています.今後のより詳細な解析によって硬質性の起源を明らかにするとともに,γ型A3N4を凌ぐ透明硬質性材料としての展開が期待されています.また,最近では光学半導体であるSn3N4の新奇高圧多形の合成にも成功しました[2].既存のスズ窒化物とは異なる局所構造をもつため,電子物性の観点から新しい光学電子材料を指向した研究への展開が期待されます.


[関連論文 *下線は所属学生]
[1] K. Niwa, H. Ogasawara, M. Hasegawa, Dalton Transactions 46 (2017) 9750-9754
[2] K. Niwa, T. Inagaki, T. Ohsuna, Z. Liu, T. Sasaki, N. A. Gaida, M. Hasegawa, CrystEngComm 22 (2020) 3531-3538

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Topic 3

遷移金属多窒化物の超高圧合成と結晶化学および電子構造


 2004年に,40 GPa以上の圧力において白金と窒素分子の直接反応から白金窒化物が合成されることが報告されました.その後の詳細な結晶構造解析と第一原理計算からこの白金窒化物はPtN2であることが明らかにされました.PtN2は結晶構造中に単結合窒素(N-N)を含むため白金“多”窒化物と呼ばれています.遷移金属多窒化物の超高圧合成は実験技術的に難しいため研究は一時停滞しましたが,2014年に我々は最後まで未発見だった他の白金族元素多窒化物の超高圧合成に成功しました[1-4].そして現在では白金族のみならず,他の遷移金属・典型元素の多窒化物が次々と合成され,最先端の物質科学が展開されています.

 多窒化物の合成が可能な実験設備を持つ研究機関は我々を含めても世界に数カ所です.我々はここ数年,遷移金属多窒化物の超高圧合成の研究に積極的に取り組み,白金族元素以外に例えば3d遷移金属元素の多窒化物であるCrN2,CoN2,NiN2の合成に成功しました[5-7].また曽田研究室との共同研究で,マイクロサイズに絞った放射光X線を用いた光電子分光測定から,遷移金属多窒化物の電子構造の解明にも取り組んできました[8, 9].こうした超高圧下における新物質合成手法および極微小試料の分析技術は,独自のノウハウに基づいて開発されてきたものです.現在,合成手法・評価技術をさらに改良し遷移金属多窒化物の詳細な物性の解明に取り組んでいます.


[関連論文 *下線は所属学生]
[1] K. Niwa, D. Dzivenko, K. Suzuki, R. Riedel, I. Troyan, M. Eremets and M. Hasegawa, Inorganic Chemistry 53 (2014) 697-699
[2] K. Niwa, K. Suzuki, S. Muto, K. Tatsumi, K. Soda, T. Kikegawa and M. Hasegawa, Chemistry-A European Journal 20 (2014) 1–5
[3] 丹羽健,長谷川正 高圧力の科学と技術 24 (2014) 178-187
[4] K. Niwa, T. Terabe, K. Suzuki, Y. Shirako and M. Hasegawa, Journal of Applied Physics 119 (2016) 065901
[5] K. Niwa, T. Terabe, D. Kato, S. Takayama, M.Kato, K. Soda, M. Hasegawa, Inorganic Chemistry 56 (2017) 6410-6418
[6] K. Niwa, T. Yamamoto, T. Sasaki, M. Hasegawa, Physical Review Materials 3 (2019) 053601
[7] K. Niwa, R. Fukui, T. Terabe, T. Kawada, D. Kato, T. Sasaki, K. Soda, M. Hasegawa, European Journal of Inorganic Chemistry 33 (2019) 3753-3757
[8] K. Soda, T. Mizui, M. Komabuchi, M. Kato, T. Terabe, K. Suzuki, K. Niwa, Y. Shirako, M. Hasegawa, M. Akaogi, H. Kojitani, E. Ikenaga, Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ) 86 (2017) 064804
[9] K. Soda, M. Komabuchi, K. Maeguchi, M. Kato, T. Terabe, K. Niwa, M. Hasegawa, Y. Ikemoto, H. Okamura, Physica B: Physics of Condensed Matter 558 (2019) 54-58

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Topic 4

アンモニウム塩を用いた遷移金属窒化物の高圧合成と結晶成長


遷移金属窒化物は超伝導,磁性,硬質性などの様々な物性を示す物質群です. 我々はダイヤモンドアンビルセルによって新規遷移金属多窒化物を多数発見したことを踏まえて,マルチアンビルプレスを用いた遷移金属窒化物の合成にも取り組んできました. これまでのマルチアンビルプレスを用いた遷移金属窒化物の合成では不安定なアジ化物が使用されてきましたが,我々はハロゲン化アンモニウムが窒素源になることを見出しました. なかでも常圧では窒化が難しいタングステンを高温高圧下で窒化することに成功しました.さらにMoC型構造をとる新規窒化タングステンを発見し,その圧縮挙動を明らかにしました[1].

また,ハロゲン化アンモニウムを窒素源として遷移金属窒化物が生成するとともに,遷移金属窒化物の単結晶を育成することに成功しました[1-3]. ハロゲン化アンモニウムは常圧下では高温で分解しますが,高圧高温下では溶融します.この溶融したハロゲン化アンモニウムがフラックス(助剤)として働き,単結晶が育成されたと考えられます. さらに,窒化タンタルのナノワイヤーを作製することにも成功しました[2].高圧下で遷移金属窒化物のナノワイヤーの合成は初めてであり,表面積の大きなナノワイヤーは様々な物性の向上が期待できます. このような窒化物を結晶成長させるためのフラックスはこれまでに例がなく, ハロゲン化アンモニウムが遷移金属窒化物を合成するための有用な窒素源であると同時に,窒化物を結晶成長させるための優れたフラックスであることが見出されました.

[関連論文 *下線は所属学生]
[1] T. Sasaki, T. Ikoma, K. Sago, Z. Liu, K. Niwa, T. Ohsuna, M. Hasegawa, Inorganic Chemistry 58 24 (2019) 16379-16386
[2] N. Gaida, T. Sasaki, Z. Liu, K. Niwa, M. Hirozawa, T. Ohsuna, M. Hasegawa, Applied Physics Letters, 116 12 (2020) 123102
[3] 生駒 鷹秀,GAIDA Nico Alexander,佐々木 拓也,丹羽 健,長谷川 正, 第48回結晶成長国内会議(JCCG-48) (2019)

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Topic 5

高圧力合成を利用した新規蛍光体の合成と発光特性評価


蛍光体は吸収した光を異なるエネルギーの光として放出(発光)する材料であり,白色LED照明にも利用されています. 我々の研究室では高圧力合成を用い,大気圧下では合成することが困難な新規高圧相蛍光体の創製と発光制御に取り組んでいます. 我々はDIA型マルチアンビルプレスを使用し,高圧力下でBa2Al6O11とSr2Al6O11を合成しました. Ba2Al6O11は高圧下でのみ合成することが可能であり,我々が初めて合成することに成功した物質です. これらの物質に微量のEuを加えると,Sr2Al6O11は青色に,Ba2Al6O11は青緑色に発光しました. この発光色の差異はBa2Al6O11とSr2Al6O11の結晶構造の違いに起因します[1]. 本研究の結果から,高圧下において新規蛍光体を合成することに成功し,蛍光体合成における高圧合成法の有用性が示されました.

また,大気圧下での合成による蛍光体の発光制御にも取り組んでいます. Y3Al5O12は蛍光体に利用される代表的な物質であり,Ceを加えたY3Al5O12は白色LED照明にも利用されています. このY3Al5O12に微量のMnを加えると4価のMnによる赤色に発光します. 我々のグループではAlをGaに,YをGdに置換することで,発光するMnの配位環境を変化させて,発光の制御に成功するとともに, 詳細な結晶構造の解析結果から,その発光がMnが置換する八面体サイトを稜共有する十二面体サイトと相関があることを見出しました[2]. 本研究結果より,Mn賦活蛍光体の結晶化学と発光特性の関係を明らかにすることに成功しました.

[関連論文 *下線は所属学生]
[1] T. Sasaki, K. Niwa, M. Hasegawa, will be submitted.
[2] 安積 良太,佐々木 拓也,丹羽 健,長谷川 正, 第29回学生による材料フォーラム, (2019)

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Topic 6

ナノ多結晶セラミック(ナノセラミック)の合成と機能特性


ナノ多結晶セラミック(ナノセラミック)のような,ナノ構造化によってバルク材料の物理的特性をどのように高められるか、という研究はわずかしか存在しませんでした。ナノセラミックは、結晶中の原子に対して界面の原子または結晶粒界の原子の比率が高いために、高強度・高靭性、超イオン伝導性、超塑性、または高い光透過性などの興味深い物理的特性を示します。(Wollmershauser et al., Acta Mater., 2014). 我々は根底にあるメカニズムを調べることで、ナノサイズの粒子で構成された高密度セラミックのバルクを作製するという課題に挑んでいます。高圧技術は高密度ナノセラミックを作製する上で信頼できるツールであることが証明されています。高圧力は高温における再結晶と結晶粒成長の原因となる自己拡散を抑制します。同時に、圧力は相の配位数と密度に影響を与え、それにより強力な結晶内の原子間結合を可能にします。最近では高い光学的透明性を有するケイ酸塩ガーネット(Irifune et al., Nat. Comm., 2016),  立方晶Si3N4 (Nishiyama et al., Sci. Rep., 2017), 三斜晶系アルミノケイ酸塩 (Gaida et al., J. Am. Ceram. Soc., 2018; Gaida et al., J. Am. Ceram. Soc., 2020)や、独特な強化機構を有するスティショバイト(Nishiyama et al., Sci. Rep., 2016)など,予想していなかった新しい特性を示すいくつかのナノセラミックが高圧実験によって調べられてきました。 [1-2]

例えば、私たちは主に三斜晶系で機械的特性に優れた複屈折結晶からなる透明度の高いナノセラミックの合成に成功しました。(Gaida et al., J. Am. Ceram. Soc., 2018; Gaida et al., Int. J. Ceramic. Eng. Sci., 2020). [1,3 ]これは、結晶系に関係なく可視光領域で強い吸収がないすべての固体が、透明な多結晶材料を形成する可能性があるということを実験的に証明した結果です。また、この結果は高い温度圧力が、粒子サイズの変動が少なく、ナノメートルからマイクロメートルスケールの粒子サイズで構成された高密度バルクセラミックの形成に非常に便利であることを明らかにしました。

[関連論文]
[1] N. Gaida, N. Nishiyama, A. Masuno, U. Schürmann, C. Giehl, O.Beermann, H. Ohfuji, J. Bednarcik, E. Kulik, A. Holzheid, T. Irifune, L. Kienle, Journal of the American Ceramic Society 1001 (2018) 998-1003.
[2] N. Gaida, S. Gréaux, Y. Kono, H. Ohfuji, H. Kuwahara, N. Nishiyama, O. Beermann, T. Sasaki, K. Niwa, M. Hasegawa, Journal of the American Ceramic Society 00 (2020) 1-10.
[3] N. Gaida, N. Nishiyama, O. Beermann, U. Schürmann, A. Masuno, C. Giehl, K. Niwa, M. Hasegawa, S. Bhat, R. Farla, L. Kienle, International Journal of Ceramic Engineering and Science 2 (2020) 76-82.

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上記の内容以外にもスタッフ,大学院生が様々な研究テーマで実験に取り組んでいます.
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